んでゐました。
「お婆さんはどうして?」
「死んでゐます。」
妙子は遠藤を見上げながら、美しい眉をひそめました。
「私、ちつとも知らなかつたわ。お婆さんは遠藤さんが――あなたが殺してしまつたの?」
遠藤は婆さんの屍骸《しがい》から、妙子の顔へ眼をやりました。今夜の計略が失敗したことが、――しかしその為に婆さんも死ねば、妙子も無事に取り返せたことが、――運命の力の不思議なことが、やつと遠藤にもわかつたのは、この瞬間だつたのです。
「私が殺したのぢやありません。あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です。」
遠藤は妙子を抱《かか》へた儘、おごそかにかう囁《ささや》きました。
[#地から2字上げ](大正九年十二月)
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月11日公開
2004年2月8日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボラ
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