かの機會《きくわい》に紅毛人《こうもうじん》たちにも一|椀《わん》の「しるこ」をすすめて見《み》るが善《よ》い。彼等《かれら》は天《てん》ぷらを愛《あい》するやうに「しるこ」をも必《かなら》ず――愛《あい》するかどうかは多少《たしよう》の疑問《ぎもん》はあるにもせよ、兎《と》に角《かく》一|應《おう》はすすめて見《み》る價値《かち》のあることだけは確《たし》かであらう。
 僕《ぼく》は今《いま》もペンを持《も》つたまま、はるかにニユウヨオクの或《ある》クラブに紅毛人《こうもうじん》の男女《だんぢよ》が七八|人《にん》、一|椀《わん》の「しるこ」を啜《すゝ》りながら、チヤアリ、チヤプリンの離婚問題《りこんもんだい》か何《なん》かを話《はな》してゐる光景《くわうけい》を想像《さうぞう》してゐる。それから又《また》パリの或《ある》カツフエにやはり紅毛人《こうもうじん》の畫家《ぐわか》が一人《ひとり》、一|椀《わん》の「しるこ」を啜《すゝ》りながら、――こんな想像《さうぞう》をすることは閑人《かんじん》の仕事《しごと》に相違《さうゐ》ない。しかしあの逞《たくま》しいムツソリニも一|椀《わん》の「しるこ」を啜《すゝ》りながら、天下《てんか》の大勢《たいせい》を考《かんが》へてゐるのは兎《と》に角《かく》想像《さうぞう》するだけでも愉快《ゆくわい》であらう。
[#地から2字上げ](二、五、七)



底本:「芥川龍之介全集 第九卷」岩波書店
   1978(昭和53)年4月24日初版発行
   1983(昭和58)年1月20日第2刷発行
初出:「スヰート 第二卷第三號」明治製菓株式會社
   1927(昭和2)年6月15日
入力:高柳典子
校正:多羅尾伴内
2003年6月29日作成
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