ウんも今夜はするって云うから、――」
「慎ちゃんは?」
お絹は薄い※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶた》を挙げて、じろりと慎太郎の顔を眺めた。
「僕はどうでも好い。」
「不相変《あいかわらず》慎ちゃんは煮《に》え切らないのね。高等学校へでもはいったら、もっとはきはきするかと思ったけれど。――」
「この人はお前、疲れているじゃないか?」
叔母ば半ばたしなめるように、癇高《かんだか》いお絹の言葉を制した。
「今夜は一番さきへ寝かした方が好いやね。何も夜伽ぎをするからって、今夜に限った事じゃあるまいし、――」
「じゃ一番さきに寝るかな。」
慎太郎はまた弟のE・C・Cに火をつけた。垂死《すいし》の母を見て来た癖に、もう内心ははしゃいでいる彼自身の軽薄を憎みながら、………
六
それでも店の二階の蒲団《ふとん》に、慎太郎《しんたろう》が体を横たえたのは、その夜の十二時近くだった。彼は叔母の言葉通り、実際旅疲れを感じていた。が、いよいよ電燈を消して見ると、何度か寝反《ねがえ》りを繰り返しても、容易に睡気《ねむけ》を催さなかった。
彼の隣には父の賢造《けん
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