芥川竜之介
あばばばば
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)保吉《やすきち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)軍艦|三笠《みかさ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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保吉《やすきち》はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。
ずつと以前から、――或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓があり、窓の中には大将旗を掲げた軍艦|三笠《みかさ》の模型のまはりにキユラソオの壜だのココアの罐だの干《ほ》し葡萄《ぶだう》の箱だのが並べてある。が、軒先に「たばこ」と抜いた赤塗りの看板が出てゐるから、勿論マツチも売らない筈はない。彼は店を覗《のぞ》きこみながら、「マツチを一つくれ給へ」と云つた。店先には高い勘定台《かんぢやうだい》の後ろに若い眇《すがめ》の男が一人、つまらなさうに佇《たたず》んでゐる。それが彼の顔を見ると、算盤《そろばん》を竪《たて》に構へたまま、にこりともせずに返事をした。
「これをお持ちなさい。生憎《あいにく》マツチを
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