とか云へるにや違ひない。しかしその文学を研究する学問だね、あれは一体学問だらうか。(或は独立した学問だらうかと云つても好いが。)もし学問とすれば、――むづかしく云へば Wissenschaft として成立するのに必要な条件を具へるとすればだね。さうすれば美学と同じものになつちまふぢやないか。いや、美学ばかりぢやない。文学史なんぞは、始から史学と同じものだらうと思ふんだ。そりや成程今純文学科でやつてゐる講義にや、美学や史学と縁のないものだつて、沢山ある。が、その沢山あるものは、義理にも学問だとは思はれないぢやないか。あれはまあよく云へば先生の感想を述べたもので、悪く云へば出たらめだからね。だから僕は大学の純文学科なんぞは、廃止しちまつた方がほんたうだと思ふんだ。文学概論や何かは美学と一しよにする。文学史は史学へ片づけてしまふ。さうしてあとに残つた講義は、要するに出たらめだから、大学外へ駆逐しちまふんだ。出たらめだからと云つて悪るければ、余りに高尚で、大学のやうな学問の研究を目的にする所には、不釣合だと云つても好い。これは確に目下の急務だよ。さもないと同じ出たらめでも、新聞や雑誌へ出た評論
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