なければならないものにさへ、われわれはうつかりして自分の方から金を出して買つてゐたのだ――といふことがすばらしい人気を呼んで本が一冊も売れなくなつたり、電車の行つたり来たりするのを見てゐた二人の子供の一人が「朝の一番最始[#「始」に「ママ」の注記]の電車はどつちから先に来るんだ」と言つたことに端を発して、朝に就ては世の学者誰一人として何も知らなかつたことを暴露してしまつたり、最低価額の下宿住ひの或る男が、そこの賄ひだけで死なずに十分生きてゆける筈なのに、時折りカフエーなどに出入してビールやトンカツを食ふということが、どういふわけのことであるのかといふことになつて、結局は熱心な学者に依つて生きたまゝ解剖されて脳と胃袋がアルコール漬の標本になつてしまつた等々々――のさうした状態もそのまゝずい[#「い」に「ママ」の注記]ぶん永くつゞくだけはつゞいたのです。
 そして、何時の間にか電車の数が住居者の人口より多くなつてゐたり、警官の数が警官でない者の五倍にもなつてゐるのにびつくりして、最善の方法としてそのまゝに二つのものゝ位置をとりかへたりするやうなことを幾度かくりかへした頃には、人達はてんでに
前へ 次へ
全30ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング