の墓地には、裏手の山からおびただしく土砂が押し出して来て、そこら中目もあてられぬ程の荒れ様だった。水溜りがいっぱい出来て、おまけに利国の墓には盛土の横腹にドカンとした大穴があいた。そこから水が流れ込んだと見え、屋根は引っくり返り墓標がガサリと落ち込んで了った。
その朝早く、朝草刈に近道を抜けて来た、おときが見付けて「おお、怖っかねえ!」と魂消た声をだした。そして小さい男の児を急《せ》き立てて、「さァ、さっさと歩かんと利国さのお化が出てくるぞ!」とおどかした。
おときは坂の上から志津を呼んでそのことを話して行った。
翌日になって志津は隣の源吉を頼んで墓地の掃除をはじめた。先祖代々の物々しい墓石が列を作って幾列もならんでゐる。広い地所丈に荒れ切って落莫としたものだった。
一番前列に、善次郎、お安、おたけ、紋治、そして利国のがならんでゐる。石碑が立たぬのでどれも形許りの土饅頭で、墓標の文字が辛うじて読めた。
「おばあさまのが一番しっかり出来とる」
源吉はさう云った。まだ何んと云っても、お安の死んだ頃には、森田家にも残りの光があったのだ。それが最後の利国の場合には、まるで形許りのものだった。
隣部落から頼んだ禰宜様が、汚れた白足袋を穿いたままで、通り一遍の祝詞《のりと》をあげたきり、なにしろ北風の寒い日で吹きさらしの墓場にはゐられないので、お義理に集った部落の者達もそこそこに引き揚げて了ったのだった。
源吉は志津を相手にして、土を連びだしたり盛土を盛り直して屋根をつくろったりした。学校から帰って来た久衛と秀とが墓場に上って来てから急に賑かになった。源吉は自分の藪から伐って来た青竹で作った竹筒を一本づつ墓の横へ立てた。
「なんでたかつっぽ立てるの?」秀は父親に聞いた。
「花を立てて進ぜるんだ。仏さまにな」
「お父っさまに灯をつけて進ぜるんだに」
志津は久衛に云った。
「灯を進ぜるってどうやるんな?」
「いつか新ちゃんとこでしたやうにかな? 蝋燭をうんとつけて……」二人の子供は同時に聞いた。
「うん、八百燈をな」
「どこへ灯をつけるんな?」
「ここのまはりから街道の方へつけて行くやうにするだな」
源吉は志津に計るやうに云った。
うるさく問ひ質した秀と久衛はその時思はず顔を見合せた。
「やア!」といかにも悦ばしさうな声を上げた。
「やア、灯をつけるんだってよォ
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