になったつもりで、外へ出かけるのにも黙って出るようになりました。たまには、夜おそくなってから帰って来るようなこともありました。
ある日、モーティは、朝早くからお坊ちゃまと一しょに出かけたきり、夜になっても帰って来ませんでした。その日は、陸軍の大演習で朝から晩まで飛行機が、とんぼのように空を飛びまわっていましたので、誰《だれ》でもお家にじっとしていられないような日でした。ですから、モーティも、そんなことで夢中になっているのだろうと思っていましたが、あくる日になっても、まだ帰って来ませんでした。
二人の自動車は一晩中寝ずに待っていました。ピリイは、あんまり泣いたもので、放熱器《レディエイター》の水がすっかりなくなってしまいました。で、ひどく頭がほてって、怒《おこ》りっぽくなってしまいました。次の日ピリイに乗ってお出かけになった奥さまは、行く先々でピリイの頭へ、バケツに何ばいも何ばいも水を、ぶっかけなければなりませんでした。
「いつも、おとなしい車なのに、今日は、どうしたんでしょう。ちょっとしたことにもすぐに、湯気をシュッシュッとふき出して、じきに放熱器《レディエイター》の水が乾《かわ》いてしまうんですよ。」
奥さんは、その晩、御飯を召し上りながら、御主人にお話になりました。
「いや、私のポピイも、今日は、よほどへんだったよ。」と御主人もおっしゃいました。「横丁さえ見れば曲りたがるんだ。ハンドルをいくら抑《おさ》えてもきかないんだ。どうもへんだよ。」
それでも次の日、御主人は、またポピイに乗ってお出かけになりました。ポピイは、また、一生けんめい、モーティを探《さが》そうと、あっちの横丁、こっちの裏通りを覗《のぞ》き覗き歩きました。で、とうとう、うっかり、ガラスのかけらの上に乗り上げてタイヤをパンクしてしまいました。御主人こそいい災難です。――ポピイは、御主人と一しょに夜遅くなって、ようやくお屋敷へ帰りました。
五
それから、また幾日もたちました。でも、まだモーティは帰って来ません。ポピイとピリイとは、がっかりして、すっかり元気がなくなってしまいました。
「ひょっとしたら、モーティは盗まれて、古自動車屋へでも売られたんではないでしょうか。」
「よし、その内、御主人のおともをして、下町の方へ出ることがあるだろうから、その時は、思い切ってガラクタ屋
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