やんちゃオートバイ
木内高音

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中古《ちゅうぶる》の

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(例)ほて[#「ほて」に傍点]って
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        一

 ポピイとピリイとは、あるお屋敷の車庫の中で長い間一しょに暮して来た、もう中古《ちゅうぶる》の自動車です。二人は、それぞれ御主人と奥さまとを乗せて、ちょうど、御主人夫婦と同じように、仲よく、りっぱに暮してまいりました。親切な、やさしい御主人にガソリンだの油だのを十分にいただき、行き届いた手入れをしていただき、何の不自由もありませんでした。
 しかし、一日中、賑《にぎ》やかな街《まち》を駈《か》け歩いてから、ガランとした車庫にはいると、二人は、どうも淋《さび》しくってたまりませんでした。二人は、それを自分たちに子供がないからだと思いました。
「男の子が一人あったらなア。」とポピイは言い言いしました。「そうすれば、自分の名前をついでもらうことも出来るのだが……。」
「あたしは、女の子が欲しいわ。どんなに可愛《かわい》いでしょうね。それに女の子だったら、きっと車庫の中もきれいにお掃除してくれるわ。」ピリイは言うのでした。
 しかし、男の子も女の子も、なかなか来てはくれませんでした。二人は、コンクリイトの床を歩きまわる小さなタイヤの音や、夜中に、自分たちのそばで可愛らしいラッパのいびきをかいている小さな自動車のことを考えると、居心地《いごこち》のいい車庫にはいてもちっとも、しあわせだとは思えないのでした。
 ある日、ピリイは言いました。
「あたしたちに、もう、自分の子供が出来るあてがないとしたら、いっそのこと、可哀《かわい》そうな孤児《こじ》かなんかを養子《ようし》にもらったらどうでしょう。」
 ポピイは、しかし、この考えには、あまり乗り気になれませんでした。身寄りのない、気の毒な子を育ててやるということには、もちろん賛成なのですが、それでは、自分の名前をつがせることが出来るかどうかと、心配でならなかったのです。
 でも、ピリイの方は、もう、かたく決心しておりました。いつでも、一度言い出したことを、あとにひかないのが、ピリイのくせでした。ピリイは、どこまでも孤児をもらうのだと言い張りました。ピイピイ、ラッパを鳴らしたり、放熱器《レディエイタ
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