った雛は飛ぶ様に売れて、親鳥の代価は完全に償われ、後は全くお伽話の様に金の卵を産むに等しかった。憑かれた様な流行力は、何の変哲もなく、只日本人の如く多産であると云うだけのこの鳥に、「白」だとか「背残り」だとか「チョボ一」だとかまるで骨董の様な種別を創造し、価値の上には相場の様な変動を生みつけた。需供の関係等は悪宣伝と浮気な流行心理の後ろに霞み去り、「飼鳥」と云う純粋な愛鳥心等も病的な流行の前に死滅し、そこには唯、露骨な殖金の一念ばかりがはびこった。にわかの小烏屋が相継いで出来、遊人は忽ち役者の様に小鳥ブローカーとなり澄し、連日の小鳥の市で席貸するお寺には、厄病時の様に金が落ちた。事実、この流行力が存続する限り損失者は殆んど例外で、十姉妹はインチキ骰子《さいころ》同様だった。
「阿呆奴、今に暴落《がら》が来るぞ」と嘲笑していた人達が、何時の間にか悪夢の捕虜になってぞくぞく渦に巻きこまれた。旱りで、田に旧い餅の様な亀裂が出来初める頃には、地道な百姓達までが鳥籠を造り出した。それは全く異様であった。行逢った人達は、天気の挨拶より旱りの噂より先に十姉妹の話だった。それは唯、不景気の病的な反動だ
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