かて……こないに毎晩、何処へ行くとも言わんと出て行くのが、第一変やないか、それにあの人の、近頃、落着きのないこと、そら可笑しい位やぜ、引出しの鍵はあの人が持ってるよってに、蚕の金はどうなったか知らんけど、な、慎作、きっとそうやで」
 ひそめるだけ声をひそめた母は、若し慎作が、「そうだ、それに定まった」とでも言おうものなら、わッと飛び立ち兼ねない様子を示していた。十姉妹を一つの自覚から思い止まってくれたのだとすると、その父がこっそり賭場通いする等とは、どうしても算出されない筈の答案ではあったが、また一方、たとえ飼鳥は思い切っても他に何とか格恰をつけねばならない責任のある父にしては、あの晩、既に「賭場」が思い当っていたのかも知れないとも考えられた。自覚からじゃなかった、少くともそれは第一義じゃなかった。子煩悩から支持する愛児の面目を、理由は第二として盲愛から立てずにはいられなかったのだ。そうは思っても、慎作は父に対して決して幻滅を覚えたりはしなかった。総てを胸のうちにおさめて臆病な父が、賭場通い等と言う様な冒険を決意した……その間の苦渋が胸の痛むほどに察しられた。
 田村の賭場は、巧妙な客
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