はざる也。
或はまた国民性を言ふものの意は所謂勧懲主義、教訓主義の再興にありとも解せられざるにあらず[#「所謂」から「あらず」まで傍点]、則ち功利的見地に立ちて今の文学を律せんとするものとも解せられざるべきか。功利と文学との関係[#「功利と文学との関係」に傍点]は正当には如何に解すべきかは此に論ぜずとするも、単なる勧懲主義、単なる教訓主義は以て文学の真意義を蔽《おほ》ひ得ベしとするか。もし蔽ひ得べしとせば其の哲学的根拠[#「哲学的根拠」に傍点]は如何、吾人は之れを叩《たゝ》かざるを得ざる也。
然らば、今の文壇に国民性を描くの要を唱ふるものの真意義[#「真意義」に傍点]は果して那辺《なへん》にか之れを求むべき。もし之れに是認せらるべき点ありとせば果して何の点ぞ。
第一[#「第一」に傍点]、今の作家が自家の小主観に埋頭して一歩を此の境外に転ずる能はざるが如き観あるに対して国民性を描けと言ふか、真意は則ち作家に向つて客観的なれ[#「客観的なれ」に傍点]といふにあり、主観を拡大せよ[#「主観を拡大せよ」に傍点]といふにあり。此の意を持して国民性を説く、(此の点につきては漫《みだり》に作家のみ責むべき理由なしとするも)意や可《よ》し、言の不妥なるを如何《いかん》。
第二[#「第二」に傍点]、今の作家が徒《いたづ》らに人生の暗処、弱処、悲惨事をのみ描きて時に詩的正義[#「詩的正義」に傍点]の大道をだに逸し去らんとするの観あるに対して、国民性を描けといふか、真意は更に人生の美所、高所、光明の側(光明[#「光明」に傍点]といふ意義の厳には如何に解すべきかは姑く別にして)をも描きて詩的正義を点ぜよと言ふにあり。此にも根本の要求点は作家の同情を広大せよ、一層客観的なれといふにあり。意や可し、言の不妥なるを如何。
第三[#「第三」に傍点]、今の作家が自家の狭隘《けふあい》なる観察に材を※[#「蹠」の「足」に代えて「てへん」]《ひろひと》りて、其の内容の余りに吾人の実生活[#「実生活」に傍点]と風馬牛なるの観あるに対して一層吾人の関心せる、興味多き、実世間、現思潮[#「関心せる、興味多き、実世間、現思潮」に傍点]に接近せよといふか、言ひ換ふれば今一層現在の国民的生活に触着せよといふか、(所謂現思潮の何物たるかは一疑点たれど)所謂国民性を唱ふるものの意此の点に於ても是認せらるべきに
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