このAサッシュ工場は一年前には従業員が二百五十人もいた。そして当時から全国同盟関東金属労働組合の締付け工場だった。それが僅かこの一ヵ年の間に、三十人、五十人と馘首されて行った。
「不景気なんだから気の毒だが致方がない。」
 その度に工場主はそう説得した。処が、組合の幹部もまるで同じことを言った。そこで、残った従業員も、
「不景気。成程、そうかも知れない。首切られたのが俺でなくてまあよかったわい。」
 と、その度に安堵の胸を無下した。僅かな涙金でおっぱらわれ、散々になって去って行く仲間を見て見ぬ振りをしている有様だった。
 遂に従業員が百五十人に足りなくなって了った。そして今年になって、まだ松の内も過ぎないのに、不意打に又復バサリと五十幾人が首だ!
「た、他人事じゃねえ。こんなじゃ次に何時来るか知れやしねえ。」
 さすがに残った者も狼狽した。そうなると、唯一の頼みは組合だ。一体、組合は俺達労働者が団結した力でこんな時にこそ資本家に対抗するためにあるのじゃなかったか。組合の幹部は今度こそ棄てては置かないだろう。馘首されたものは勿論、残った者も自発的に事務所に集って来た。
「馘首絶対反対
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