ば、鬱積したる不平は致命的に放たるる恐れがある。是は尤も憂ふべきことである。安藤は今日あるを見越して立説した譯ではないが、彼はかかる衝突の起らない樣なる社會を建設しようとしたのである。彼の農本組織は第一の目的は罪惡の防止にあるも、其樹立の結果として與ふるものと受くるものとの對峙は同時に消滅に歸することは慧眼なる讀者の見逃さぬところであらう。即ち不平の鬱積することのない樣に工夫せられてゐた安全策であつたのである。よし又此案が始めから無かつたとしても、彼の妥協的態度を維持し、決して爭を爲さないと云ふことは、尚且つ彼の存在をして大に意義あらしむるものと云はざるを得ない。何となれば與ふるものと受るものとに於て此妥協的態度を學ぶことありとすれば、忌々しき爭鬪の起るごときことがなくなるのであるから、單にこれだけにても彼の目的は幾分達せられたものと見るを得るからである。實にこの普遍的妥協の精神は彼の衝天の意氣と兩々相待つて彼をして大を成さしむるに足るものである。彼の救世策其ものに至つては珍らしく徹底的であるとは云ひ、根本思想に重大なる缺陷を有し、論議すべきところも甚だ多い。一々批評するのは大事である
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