自然と見てゐるので、其現象は皆自然が獨りで働いて起すのであつて、決して他に神佛のごとき者を俟つて起るのでないと主張するのである。そこで彼は又歩を進めて自然を曲解する聖人の論を打破するに着手する。
 然るに伏羲○《コレ》を大極の圖と爲し、中に何も無き所に於て衆理を具ふと爲し、空理を以て極意と爲すこと甚だ失れり。圓相は氣滿の象積氣の貌なり。之を以て轉定の異前と爲し、是が動陽儀を天體と爲し、靜陰儀を地體と爲し、天地を二と爲し、上尊下卑の位を附す。是れ己れ衆の上に立たんが爲め、私法を以て轉下に道を失る根源なり矣。是より上下私欲を爭ひ、亂世の始本と爲す。而して今の世に至るも止むこと無し。拙い哉、自然を失る哉。自然は無始無終にして五行一眞感神の靈活にして、進退に通横逆の運囘を盡して、轉定人物と爲す。故に轉定は自然の進退退進にして無始無終、無上無下、無尊無賤、無二にして進退一體なり。故に轉定先後ある者に非ざるなり。唯自然なり。然るに己れを利せんが爲めに之を失り之を盜み、轉定に先後を附し、先を以て大極と爲し、後を以て天地と爲し、二つの位と爲す。是れ失の始め大亂の本と爲るなり。――伏羲を以て此説を爲した
前へ 次へ
全53ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
狩野 亨吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング