の任に當るを潔しとせずと云つた格で、今後は鳥獸蟲魚介、あるとあらゆる生物を呼出し、彼に代り法世の批評を試みしめたものである。革命の曉を告ぐる鷄を先鋒として、入交り立交り、説來り説去るところ、悉く其動物の形態を盡し、其性情を穿ち、直に之を世上の人に移して、愚弄嘲笑の具に供し、一上一下應接に遑なく、其着想の奇と其用語の妙と相俟つて、讀む者をして抱腹絶倒、快哉を叫ばしむるに足るもの再三ならずあつた。此餘裕此諧謔はどうしても狂人の技量とは取れない。のみならず此卷に現れた動物に關する知識の豐富正確なるを以て安藤は本草に通じたる醫者であつたのではなからうかと推定したのである。
 最後に、温和柔順なる人であつたらうとの證據を擧げる。彼は爭を好まなかつたといふのは彼の知的思索の結果と見らるる恐れがあるから、ここには彼の愛好した人物は孰れも温順な人であつたと云ふことを示して、情的にもさうした傾向のあつたのであらうとのことを立證する。何れの卷であつたか記憶はないが、救世主自らが尤も完全と思つてゐる歴史的人物を拔擢して見せると云ふのであるから、正襟して見てゐると、理想的完全人一名と、半人前の人一名と、都合二
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