れてしまった。これは下りても駄目だと自分は思った。ええままよ一夜を明かしてやれ、星が光るじゃないかとすっかり落着いてしまった。再びあかりは見えなくなった。いよいよ谷に下りた。二つの流れに挟まれた狭い谷にきた時に、孝ちゃんがかんじきの跡を見つけた。壌中電灯の光は、ゆきなやみながら谷を行く。まるい光が雪の下の岩を照らし、夜も休まず流れる水を照らす。谷川の石の上に積った雪の上を長いスキーで渡るところもある。孝ちゃんが片足をふみはずした時自分は思わず、「アッ」と小さな声を闇であげた。スキーをぬぎながら「この先行かれません」という。「そんなことはありません」とウ氏が渡ったと思うと、スキーが闇ででんぐりかえるのが見えた。ウ氏は幸いに大きな岩の上に落ちた。電灯は次へ次へ渡される。坊城の腕時計を照らしたら七時半だった。さっきもどった時から一時間滑ったわけだ。どうにかこの先から右手の沢を渡った。ああ星の夜の雪の旅。なんという静かな夢のようなありさまだ。木々の梢が雪に浮いて、その間に、星が光っている。寒さはよほど強いらしいが用意をした身体は、ぽかぽかと気持ちよく血がめぐっている。「ああ一晩ここで明かしたい
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