やみとはやく、飛んで行ってしまった。夕食後は、小屋をしめてみんなで温泉に行く。丸木橋を渡って、歌を唱いながら、六百山の夕日を見ながら、穂高にまつわる雲を仰ぎながら行く。湯気にくもるランプの光で、人夫の肉体美を見ながら、一日の疲労を医す。帰りには、帳場によって、峠を越えてくる人夫を待つのが一番楽しみだ。小包でも着くと大喜びで霞の上に光る星を見ながら、丸木橋を渡ると、白い泡が闇に浮いて、ゴーゴーの音が凄い。
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  冬の日記

    峠停車場

天地の眠りか 雪に埋るる板谷峠
その沈黙のさなかに スキーは登る
真白き峰々 眠れる谷々
音なく降る雪のはれまに
       鉢盛山のやさしき姿
友のさす谷をのぞけば 峠の停車場
           雪に埋れり
降りしきる雪の中を スキーは飛ぶ
谷へ谷へ 雪をかぶりし杉の柱
暗き緑の色 その奥は光も暗し
スキーはとく過ぐれど 思いはのこる
           夢幻の森
見よ今は スキーの下に 峠駅あり
高き屋根もつプラットホーム
       群がる雪かき人夫
疲れし機関車のあえぎ
    そのあえぎさえ雪に吸われ
静けさの中
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