をあけたり盛んな運動である。ついに勇敢なる将軍も天地の法則を破るあたわず、雪は滑るものと悟ったか「スキーをぬぐ」と悲鳴をあげた。小林のいわゆる「わっぱ」と自ら名をつけたかんじきをはき、膝まで雪にうずめながら歩きだした。小池もまた大変樹の枝を好む。枝につかまったきり別れを惜しんでいる。あるいはひざまずいて離別の涙を流し、あるいは雪の上に身体を横たえて神代の礼拝をしている。ついに天を仰いで「おれもスキーをぬごうか」という。頭上に板倉が気の毒なような痛快を叫びたいような顔をしながら「ぬぐともぐるぜ」と同情のない言を放つ。くやしそうな表情とともに憤然として小池将軍は立った。勇敢なものだ。やっとこの急なところを登るとよほど楽になる。二町も行くと、わが仰ぐ行手に学校の寄宿舎を集めたような建物が後ろに山を背負って巍然とたっている。その建物はことごとく藁でおおわれていた。ついに十一時過ぎにむしろをめくって、小さな入口から宿屋についた。座敷に通されていきなり炬燵にもぐりこんだ。鉄瓶の音のみが耳に入るただ一つの音である。この静けさはただ雪の世界においてのみ味い得るものだ。三人が顔を見合わせた時に、いままで
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