間ほどさきに岩が出てそのさきはとても助かりそうもない谷だ。やむなく杖を力一ぱいに雪についた。非常に雪が硬かったので杖は雪にささって身は岩の見えてる傍で、でんぐり返った。異人の「バンザイ」という声に苦笑して立ち上ると、ウ氏に「曲ることをもっと稽古しないといけません」と教えられた。ますます頭が上らない。これから尾根に出ようとすると、雪が硬い上に鏡のような雪が底の見えない谷に落込んでいる。その腹を左に山を控えて登るので足がくすぐったい。尾根に出ると猛烈な風だ。これでは長く歩いては凍死だと思った。礫《つぶて》のような雪を吹きつけるばかりか身体が逆に吹き戻される。手のさきの感覚が無くなって顔がむやみとほてった。ついにとても駄目で引き返した時には早く山の陰に行きたいと思った。かたい雪の上を滑って行きながら曲らねばならぬが、速くなるので曲り切れないで倒れては滑りなおした。みんなむきで滑っているがさきはなかなか長い。大てい左手に山を控えているので滑りにくくて困った。急な谷を下りる時などは遙かさきに小さく見える先頭を見ながらどこで止るやらわれながら分らない。心細いことだ。なにしろ人の跡は大変速くなるから
前へ 次へ
全28ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
板倉 勝宣 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング