った。頭上には硫黄を運ぶケーブルが動いている。ウ氏がつるさがってくる飛行船のような薪のたばを指して「ほらツェッペリン」と遠くのほうから愛嬌をいう。パンをほおばりながら見ると、わが眼界に遠くの山々が真白にいかにも地球のしわのごとく凸凹を見せて、そのまたさきに平野が美しく横たわって見える。こういうところから見ると、山は全く地球の襞だと合点される。天体から見ると無いといってもいいような地球の上にまたあんな襞がある。その一つの凸凹さえわれらから見ると大変な大きさだ。こうやって見ていると地球の外から地球を見ているような気がする。空をとおる雲足がむやみと速くなった。太陽が顔を出すと暖かい光がこごえた身体には大変有難いが、たちまち雲におおわれると同時に風が吹いてくる。ふるえながらパンと干葡萄をほおばった。日本は三人ともセーターだが、異人はみんな上着の用意がある。そのうえ日本人の靴は普通のだから冷たいの冷たくないの痛むことおびただしい。孝ちゃんも寒いとみえて体操をしていた。山登りは完全な用意が必要だとつくづく情けなくなった。やがて出発した。さっきの大傾斜の側を通ってまた上に登って行く。急な山をウ氏がさ
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