すと思えば想像がつく。真に安全だが楽じゃなさそうだ。これから少し行くと賽の河原に出る。岩の上をスキーで歩かされた。やがて尾根に出た。猛烈な風だ。寒いの寒くないの、夏でも寒そうなところだもの、とてもやり切れぬ。見ると米沢の盆地が一面に見渡せる。遙か遙か先に山のかげに平らなところが見える。地図のようだ。上杉のところだなと思いながら眼界の広い寒い景色を眺めた。これから山の中腹を右手に行くとやがて先頭が止った。いよいよ下るのだなと思っているとウインクレル氏の姿がスーとばかり山の下に消えて行く。先はどんなだかちょっと見当がつかない。何しろスキーの後を追って滑り出した。一つの山を曲りながら下りるとウ氏の姿が下に小さく見える。大変長い傾斜だと喜ぶうちにスキーは刻々に速度をまして行く。スキーの跡はS字形にうねって下りて行っているが、大変な速さになると曲り切れなくなった。それでもまっすぐに行っては悪いと思うから少しなりともS字を画こうと努力するとたちまち一間ぐらいはねとばされた。今度は怒ってまっすぐに下りた。速いの速くないの風がうなっている。たちまち先頭の止っているところにきた。やむを得ず自己流の杖をついて身体をぐんと後にかけてやっと止るとウ氏が見ていた。「杖を後については見にくいです。横にならよろしい」と戒められた。後からきた坊城が、「ほらみろ叱られたろう」というような笑い方をしている。仰ぎ見ると十数町の大傾斜が空の下に横たわる。それを上の方から豆つぶのような人が三つばかりS字を画きながら下りてくる。時々ぱっと雪煙が上ってひっくりかえるのが見える。ドイツのスキーの先生がみごとに下りてきた。「ああいうふうに下りるのです」とウ氏が手をかざす。ドイツの人は曲り角で腰をぐんと落しながら杖を巧みに使ってくるが杖を持ちかえるところなど落着いたものだ。もう一人のドイツ人は今度が初めてだそうだ。勇敢にひっくりかえる。ウ氏が「孝ちゃん、ここに去年炭焼き小屋がありましたね」と孝ちゃんを振返る。「今年は焼かないのです」と孝ちゃんが答える。「困りましたね、お弁当を食べようと思ったのに」といいながら、それでも「ここで食べましょう」と各自場所を見つけた。大木の切株が二つある。一つは独が占領した。日本も他の一つをとった。英はまた他の場所によった。眺めると独英日が別々に陣をとっている。「戦争をしようか」と三人で笑
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