+樔のつくり」、第4水準2−91−32]帷子とは何でおじゃる」
「何でおじゃるとは平太の刀禰、むすめ、忍藻の打扮《いでたち》じゃ。今もその口から仰せられた」
 平太も今は包みかね、
「ああ術《すべ》ない。いたわしいけれど、さらば仔細を申そうぞ。歎《なげ》きに枝を添うるがいたわしさに包もうとは力《つと》めたれど……何を匿《かく》そう、姫御前《ひめごぜ》は※[#「金+樔のつくり」、第4水準2−91−32]帷子を着けなされたまま、手に薙刀を持ちなされたまま……母御前かならず強く歎きなされな……獣に追われて殺されつろう、脛《はぎ》のあたりを噛み切られて北の山間《やまあい》に斃れておじゃッた」
 母は眼を見張ッたままであッた。平太はふたたび言葉を継いだ。
「おれがここへ来る途じゃ、はからず今のを見留めたのは。思えば不思議な縁でおじゃるが、その時には姫御前とはつゆ知らず……いたわしいことにはなッたぞや、わずかの間に三人《みたり》まで」
 母はなお眼をみはッたままだ。唇は物言いたげに動いていたが、それから言葉は一ツも出ない。
 折から門《かど》にはどやどやと人の音。
「忍藻御《おしもご》は熊に食われ
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