痴ばかりが出立する。
「ちぇイ主《ぬし》を……主たちを……ああ忍藻が心苦しめたも、虫…虫が知らせたか。大聖威怒王《だいしょういぬおう》も、ちぇイ日ごろの信心を……おのれ……こはこは平太の刀禰、などその時に馳せついて助…助太刀してはたもらんだぞ」
 怨みがましく言いながら、なおすぐにその言葉の下から、いじらしい、手でさしまねいで涙を啜《すす》り、
「聞きなされ。ああ何の不運ぞや。夫や聟は死に果てたに……こや平太の刀禰、聞きなされ、むす…むすめの忍藻もまた……忍藻もまた平太の刀禰……忍藻はまた出たばかり……昨夜……察しなされよ、平太の刀禰」
「昨夜、そもいかになされた」
 母は十分に口が利《き》けなくなッたので仕方なく手真似で仔細《しさい》を告げ知らせた。告げ知らせると平太の顔はたちまちに色が変わッた。
「さらばあの※[#「金+樔のつくり」、第4水準2−91−32]帷子《くさりかたびら》の……」
 言いかけたがはッと思ッて言葉を止《や》めた。けれどこなたは聞き咎《とが》めた。
「和主《おのし》はそもいかにして忍藻の※[#「金+樔のつくり」、第4水準2−91−32]帷子を……」
「※[#「金
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