読んだか。それにつけても未練らしいかは知らぬが、門出なされた時から今日までははや七日じゃに、七日目にこう胸がさわぐとは……打ち出せば愚痴めいたと言われ……おお雁《かり》よ。雁を見てなげいたという話は真《まこと》に……雁、雁は翼あって……のう」
だが身贔負《みびいき》で、なお幾分か、内心の内心には(このような独語の中でも)「まさか殺されはせまい」の推察が虫の息で活きている。それだのに涙腺《るいせん》は無理に門を開けさせられて熱い水の堰《せき》をかよわせた。
このままでややしばらくの間忍藻は全く無言に支配されていたが、その内に破裂した、次の一声が。
「武芸はそのため」
その途端に燈火《ともしび》はふっと消えて跡へは闇が行きわたり、燃えさした跡の火皿《ひざら》がしばらくは一人で晃々《きらきら》。
下
夜は根城を明け渡した。竹藪《たけやぶ》に伏勢を張ッている村雀《むらすずめ》はあらたに軍議を開き初め、閨《ねや》の隙間《すきま》から斫《き》り込んで来る暁の光は次第にあたりの闇を追い退《の》け、遠山の角には茜《あかね》の幕がわたり、遠近《おちこち》の渓間《たにま》からは朝雲の
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