が出たから、心も十分|猛々《たけだけ》しいかと言うに全くそうでもない。その雄々しく見えるところはただ時々の身の挙動《こなし》と言葉のありさまにあったばかりで、その婦人に固有の性質は(ことに心の教育のない婦人に固有の性質は)跡を絶ってはいない,たしかになくなってはいない。
 母が立ち去った跡で忍藻は例の匕首《あいくち》を手に取り上げて抜き離し、しばらくは氷の光をみつめてきっとした風情であったが、またその下からすぐに溜息が出た,
「匕首、この匕首……さきにも母上が仰せられたごとくあの刀禰の記念《かたみ》じゃが……さてもこれを見ればいとどなお……そも刀禰たちは鎌倉まで行き着かれたか、無難に。太《いと》う武芸に長《た》けておじゃるから思いやるも女々しけれど……心にかかるは先ほどの人々の浮評《うわさ》よ。狭い胸には持ちかねて母上に言い出づれば、あれほどに心強うおじゃるよ。看経も時によるわ、この分《わ》きがたい最中《もなか》に、何事ぞ、心のどけく。そもこの身の夫のみのお身の上ではなくて現在母上の夫さえもおなじさまでおじゃるのに……さてもさても。武士《もののふ》の妻はかほどのうてはと仰せられてもこの
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