妓、吟じて曰く宜《よろ》しく鋳たらをしたらに改むべし、而して後始めて絃《いと》に上るべき也と。鋳たらの字終に目を尊ぶの習を免れず、此中の消息吾人は人の必らず之を首肯するものあるを信ずる也。
 文を作るの時、其文体、語勢、平生読む所の書に似ること多きは人の皆知る所也。然る所以は何ぞや、呻吟、習を為すもの自ら筆に顕はるゝなり。鶯《うぐひす》を飼ひて其声を楽しむ者は、他の鶯の婉転《ゑんてん》の声を発する者をして側らに居らしむ、其声の相似るを以て也。夫の風の颯々《さつ/\》たる波の※[#「革+堂」、第3水準1−93−80]々《たう/\》たる、若くは鳥の嚶々《あう/\》たる、伐木の丁々たる、奚ぞ詩人が因つて以て其声を擬すべき粉本ならずとせんや。
[#地から2字上げ](明治二十六年八月六、十二、二十日)



底本:「現代日本文學体系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「国民新聞」
   1893(明治26)年8月6日、12日、20日
入力:kamille
校正:鈴木厚司
20
前へ 次へ
全14ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山路 愛山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング