緑青《ろくしょう》を塗ったとでもいおうか、まるで青銅《からかね》が錆《さび》たような顔で、男ではあったが、頭髪《かみのけ》が長く延びて、それが懶惰《ものぐさ》そうに、むしゃくしゃと、顔のあたりに垂れているのであった、私はそれを見ると、突然何かに襲われた様に、慄然《ぞっ》として、五六|間《けん》は大跨《おおまた》に足取《あしどり》も頗《すこぶ》る確《たしか》に歩いたが、何か後方《うしろ》から引付《ひきつ》けられるような気がしたので、それから先は、後方《うしろ》をも振向《ふりむ》かず、一散走《いつさんばし》りに夢中で駈出《かけだ》したが、その横町を出ると、すぐ其処《そこ》が金剛寺坂《こんごうじざか》という坂なので、私はもう一生懸命にその坂を中途まで下りて来ると、その時刻にまだ起きていた例の「涙寿《なみだす》し」の前《まえ》まで来て、やっと一息ついて、立止《たちどま》ったが、後方《うしろ》を見ると、もう何者も見えないので、やれ安心と思って漸《ようや》くに帰宅をした、これは或《あるい》は私の幻覚であったかもしれぬが、その蒼褪《あおざめ》た顔の凄さといったら、その当時|始終《しじゅう》眼先《めさ
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