ろくなやつが書いていないじゃないか! 草田花子! あ! こいつか! こりゃ君! この間、山本という男と、作品の褒め合いをしたかと思うと、獣《けだもの》のようにすぐくっつき合った女じゃないか。こんな女が小説を書いているんだね」と、佐竹君は「群衆」の寄稿者をことごとく罵倒した。そして「群衆」という雑誌が低級な雑誌でそれに書いている者が、ことごとくろくでもない奴らであると結論した。
 俺は、俺のわずか七枚の小品が、これほど佐竹君を激昂させたことに驚いた。この男は雑誌「群衆」をけなすことによって、俺の作品を無視しようとかかったのだ。が、それはまったく反対の事実を語っている。俺の小品が七枚でも活字になったことは、佐竹君にとって決して愉快なことではなかったのだ。俺が山野の作品によって感じているような反感と焦躁とを、佐竹君もやっぱり感じているのだ。六百枚の長篇を書き上げて、堂々と小説の大道を歩んでいるはずの佐竹君が、活字になった俺のわずか七枚の作品から圧迫を受けるとは、考えてみれば不思議なことだった。
 が、俺は俺の小品を無視しようとした佐竹君を、決して憎めなかった。俺は山野より天分が劣っていること
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