を押し退けておいて、俺にぐいぐいと迫ってきやがる。俺は、残念で堪らない、あいつに対する反感が、あいつの作品の力に押し退けられて、わけもなく感心してしまうのだ。あいつに反感を持たない一般の批評家が、感心するのももっともな話だ。それを思うと、俺は情なくなる。俺は「△△△△」を手にしながら、あいつに絶対的に打ち負かされたことを明らかに感得した。
俺は「△△△△」と共に、自分が寄稿した「群衆」を買ってきた。俺の小品も編集者の好意で、二段組ではあったが掲載されていた。が、「△△△△」と「群衆」! それは雑誌としての勢力において、無限大の隔たりがあった。俺は山野が偶然、「群衆」を手に取って、俺の作品に気がついた時、「ふふん」と嘲弄の微笑をもらす、その顔付までが歴然と感ぜられた。
もう「勝負はあった」という気がする。俺の負けは俺自身にさえ明らかだ。なあに! 初めから勝負になっていなかったのだ。「△△△△」のあいつの小説の第一ページをじっと見つめていると、無念と絶望の涙が頬を伝って流れた。俺が、「△△△△」を見ていると、偶然佐竹君がやって来た。そしてまたいつものように創作の話を始めた。
「六百枚の
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