こと、それはもう「×××」の発行で、早くも実現の第一段に到達したのだ。
俺は、山野の天分の力に、どうして対抗しようというのか。山野の天分が認められるということが、当然であればあるほど、俺の反抗は、無意味でかつ淋しかった。俺はもう目を閉じて、あいつの華々しく打って出るのを、辛抱するよりほかに、どうとも仕方がないのだ。ただ、あいつに対抗する唯一の方法は、俺があいつと同時に、文壇へ出て行くということであった。俺は、そう考えると、ふたたび俺の創作「夜の脅威」のことを思い出した。それはあまりに頼りにならないものに相違なかった。が、文壇の水準以下のものとはどうしても思われなかった。俺は、今宵、図書館を出ると、すぐ中田博士の家へ急いだ。「夜の脅威」についての批評を聞いた上、ぜひともどこかの雑誌へ推薦を依頼するつもりであったのだ。
中田博士は、都合よく在宅した。
俺は、博士と向い合うとすぐ、
「いかがです、いつかお願いしました脚本は、読んで下さいましたでしょうか」と切り出した。
「あ!」と博士はちょっと当惑の色を示したが、すぐ「あああれでしたか。つい忙しくって、読みかけのままですが、いずれゆっく
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