よい位の勢いであった。
 これに対する朝鮮軍の行動であるが、日本軍出動の報が入ると、申※[#「石+立」、第4水準2−82−36]《しんりつ》、李鎰《りいつ》の二人をして辺防の事を司《つかさど》らしめた。申※[#「石+立」、第4水準2−82−36]は京畿、黄海の二道、李鎰は忠清全羅の二道を各々巡視したが、ただ武器を点検する位に止った。申※[#「石+立」、第4水準2−82−36]の如きは眼中に日本軍なく、暴慢で到る処で徒《いたず》らに人を斬って威を示す有様なので、地方官は大いに怖れてその待遇は大臣以上であったと云う。李鎰は尚州の附近に駐屯して居たが、小西行長の先鋒は既に尚州に迫りつつあった。朝鮮軍の斥候はこの事を大将李鎰に報告したが信用しない。反《かえ》って人心を乱す者であるとして斬って仕舞った。その中《うち》に陣の前の林中に怪しい人影が動く。人々どうも日本軍の尖兵ではないかと疑ったが、うっかり云って斬られてもつまらないと誰も口にしない。その内、李鎰自身も怪しく思って騎馬武者を斥候に出すと、忽《たちま》ちに銃声響き、その男は馬から落ちると、首を獲《と》られてしまった。まさしく日本軍である。
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