りにうつくしかったので、かわいそうになってしまって、
「じゃあ、はやくおにげなさい。かわいそうなお子さまだ。」といいました。
「きっと、けものが、すぐでてきて、くいころしてしまうだろう。」と、心のうちで思いましたが、お姫さまをころさないですんだので、胸の上からおもい石でもとれたように、らくな気もちになりました。ちょうどそのとき、イノシシの子が、むこうからとびだしてきましたので、かりうどはそれをころして、その血《ち》をハンケチにつけて、お姫さまをころしたしょうこに、女王さまのところに持っていきました。女王さまは、それをごらんになって、すっかり安心して、白雪姫は死んだものと思っていました。
 さて、かわいそうなお姫さまは、大きな森の中で、たったひとりぼっちになってしまって、こわくってたまらず、いろいろな木の葉っぱを見ても、どうしてよいのか、わからないくらいでした。お姫さまは、とにかくかけだして、とがった石の上をとびこえたり、イバラの中をつきぬけたりして、森のおくの方へとすすんでいきました。ところが、けだものはそばをかけすぎますけれども、すこしもお姫さまをきずつけようとはしませんでした。白雪姫は、足のつづくかぎり走りつづけて、とうとうゆうがたになるころに、一|軒《けん》の小さな家《うち》を見つけましたので、つかれを休めようと思って、その中にはいりました。その家の中にあるものは、なんでもみんな小さいものばかりでしたが、なんともいいようがないくらいりっぱで、きよらかでした。
 そのへやのまん中には、ひとつの白い布《きれ》をかけたテーブルがあって、その上には、七つの小さなお皿《さら》があって、またその一つ一つには、さじに、ナイフに、フォークがつけてあって、なおそのほかに、七つの小さなおさかずきがおいてありました。そして、また壁《かべ》ぎわのところには、七つの小さな寝《ね》どこが、すこしあいだをおいて、じゅんじゅんにならんで、その上には、みんな雪のように白い麻《あさ》の敷布《しきふ》がしいてありました。
 白雪姫は、たいへんおなかがすいて、おまけにのどもかわいていましたから、一つ一つのお皿《さら》から、すこしずつやさい[#「やさい」に傍点]のスープとパンをたべ、それから、一つ一つのおさかずきから、一|滴《てき》ずつブドウ酒《しゅ》をのみました。それは、一つところのを、みんなたべて
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