藤十郎 (黙々として、ひそかに狂言の工夫をめぐらすごとき有様なりしが、一座の注意が連舞にひかれたる間に、ひそかに座を立つ。正面の障子をあけて、静かに廊下に出ず)
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(若衆たちは、舞いつづけている。鼓の音が、激しく賑かになる。役者たちも、浮かれ気味になる)
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弥五七 (おかしき様子にて立ち上りながら)わしも連舞の群に入ろうぞ。
四郎五郎 美しき若衆たちと、禿げた弥五七どの。これは一段と面白い取合わせじゃ。鼓はわしが打とうぞ。
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(若衆たちと一緒に、弥五七道化たる身振りにて舞う。皆笑いさざめくうちに、舞台回る)
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          第二場

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宗清の離座敷。左に鴨の河原の一部が見える。右に母屋の方へ続く長い廊下がある。絹行燈の光が美しい調度を艶《なまめ》かしく照らしている。
幕が開くと、藤十郎は右の廊下を、腕組みをしながら歩いて来る。時々、立止まって考える。廊下の柱にもたれて考える。またまた、二、三歩、歩みながら、簡単な所作
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