のいきかたは、また格別の御趣向がござりましょうな。ははは。
藤十郎 (役者たちの談話を聴いている頃から、だんだん不愉快な表情を示し始めている。若太夫の差した杯を、だまったまま受けて飲み乾す)
千寿 (藤十郎の不機嫌に気が付いて、やや取りなすように)ほんに、若太夫のいう通り、藤十郎様にはその辺の御思案が、もうちゃんと付いているはずじゃ。われらなどただ藤十郎様を頼りにして、傀儡《くぐつ》のように動いていけばよいのじゃ。
若太夫 (千寿の取りなしに力を得たように)今度の狂言に比べますと、大当りだという傾城《けいせい》浅間ヶ嶽の狂言などは、浅はかな性もない趣向でござりまする。密夫の狂言とはさすがは門左衛門様でござりまする。それに付けましても、坂田様にはこうした変った恋の覚えもござりましょうな。はははは……。
藤十郎 (先刻から、ますます不愉快な悩ましげな表情をしている。若太夫の最後の言葉に傷つけられたようにむっとして)さようなこと、なんのあってよいものか。藤十郎は、生れながらの色好みじゃが、まだ人の女房と懇《ねんご》ろした覚えはござらぬわ。
若太夫 (座興のつもりでいったことを真っ向から、突き
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