、今少し逆上した風を見せてたもらぬか。女はあのようなときは、男よりも身も世もあらぬように逆上するものじゃほどにのう。
千寿 (素直に)あいのう、合点じゃ。今日は作者の門左衛門様も、御見物じゃほどに、一段心を込めてみますわいのう。
藤十郎 さあ、もう幕が開くに程もあるまい。
[#ここから4字下げ]
(千寿の手を取りて行かんとす。急に、楽屋が騒ぎ出す。「自害じゃ。自害じゃ。女の自害じゃ」と道具方や下回りの役者たち、役者の部屋の方へ駆け込む)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
頭取 (あわてて駆け込みながら)ああ、声を立ててはならん。見物が騒ぎ出すと、舞台の方がめちゃくちゃじゃ。静かに、静かに。(皆の後から奥の方へはいる)
弥五七 (やっぱり道化方らしいやや上ついた態度で)はて面妖な。自害、しかも女の自害とは。楽屋には、牝猫一匹おらぬはずじゃがのう。
千寿 (同じく不思議そうに)女の自害! はて女の自害!
藤十郎 (思い当ることあるごとく、やや蒼白になりながら黙っている)……。
[#ここから4字下げ]
(道具方楽屋番など、お梶の死体を担いで来る。口々に
前へ
次へ
全28ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング