る。
幕が開くと、若衆形の美少年が鼓を打ちながら、五人声を揃えて、左の小唄を隆達節で歌う。
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唄「人と契るなら、薄く契りて末遂げよ。もみじ葉を見よ。薄きが散るか、濃きが散るか、濃きが先ず散るものでそろ」
(歌い終ると、役者たち拍手をして慰《ねぎら》う。下手の障子をあけ、宗清の女中赤紙の付いた文箱を持って出る)
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女中 藤十郎様にお文がまいりました。
若太夫 (中途で受取りながら)火急の用と見える。(藤十郎に渡す)
藤十郎 (受取りて)おおいかにも、火急の用事と見えまする。ちょっと披見いたしまする。皆の衆御免なされませ。なになに漣子《れんし》どの、巣林《そうりん》より、さて近松様からの書状じゃ。(口の中に黙読する、最後に至りて声を上げる)こんどの狂言われも心に懸り候ままかくは急飛脚をもって一筆呈上仕り候。少長どのに仕負けられては、独り御身様の不覚のみにてはこれなく、歌舞伎の濫觴《らんしょう》たる京歌舞伎の名折れにもなること、ゆめゆめご油断なきよう御工夫専一に願い上げ候。(しばらく考えてまた読み返
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