、君ゆえならば厭わぬ。
源次 (応じて芝居の身振りをしながら)どうなりとさしゃんせ。こちゃおさん様にいうほどに。あれおさん様、おさん様。
四郎五郎 (やはり身振りを続けながら)やれやかましいその外おさんわにの口、口のついでに口々。(急に役者に立ち返りながら)どうもここのところが、うまく行かぬのじゃ。
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(芝居茶屋の花車女に案内され、若き町娘下手の入口より入って来る)
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花車女 おお源次さま。ちょうどよいところじゃ、それそれこの間ちょっとお耳に入れた東洞院《とうのとういん》の近江屋のお嬢様でござりまする。
源次 (四郎五郎に、気兼ねをしながら)もう、幕が開《あ》きますほどに、またして下さりませ。
花車女 ほんに情けないことを、いわれますのう。せっかく楽屋まで、来られましたのに、ちょっと言葉なりと交して下さりませ。
源次 (もじもじしながら、娘に対して)ほんに、ようお出でなさりました。
町娘 (同じく恥じらいながら、黙って頭を下げる)
花車女 さあちょっと私の茶屋まで、入らせられませい。ほんのちょっ
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