は、日増《ひまし》に水量を加えて、軽い藍色《あいいろ》の水が、処々の川瀬にせかれて、淙々《そうそう》の響を揚げた。
黒木を売る大原女《おはらめ》の暢《の》びやかな声までが春らしい心を唆《そそ》った。江戸へ下る西国大名の行列が、毎日のように都の街々を過ぎた。彼等は三条の旅宿に二三日の逗留《とうりゅう》をして、都の春を十分に楽しむと、また大鳥毛《おおとりげ》の槍《やり》を物々しげに振立てて、三条大橋の橋板を、踏み轟《とどろ》かしながら、遙《はるか》な東路《あずまじ》へと下るのであった。
東国から、九州四国から、また越路《こしじ》の端からも、本山参りの善男善女《ぜんなんぜんにょ》の群が、ぞろぞろと都をさして続いた。そして彼等も春の都の渦巻の中に、幾日かを過すのであった。
その裡《うち》に、花が咲いたと云う消息が、都の人々の心を騒がし始めた。祇園《ぎおん》清水《きよみず》東山《ひがしやま》一帯の花が先《ま》ず開く、嵯峨《さが》や北山《きたやま》の花がこれに続く。こうして都の春は、愈々《いよいよ》爛熟《らんじゅく》の色を為《な》すのであった。
が、その年の都の人達の心を、一番|烈《はげ》
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