び前川の周囲に、立ち寄らせないことにしようと、頭の中でいろいろ効果のある云い廻しを考えた後、
「こんな生活なんて、大抵|自尊心《プライド》のない、無教育の女がやることですけれど、貴女は不思議ですわね。専門教育をお受けになったくせに、よくこんな寄生虫的な生活がお出来になるのですね。」と、(つまり、貴女は教育があるのに、人の妾《めかけ》になるのか)と、云わんばかりの言葉で嘲った。
 新子は、たとい貞操を売っていないにしろ、形式だけはそう思われても仕方のない生活をしているだけに、夫人の非難の少くとも半分は胸にヒシヒシと徹《こた》えるので、心はしめ[#「しめ」に傍点]木にかけられたように苦しく、なぜこんな生活に、足を踏み入れたのだろうかと、我が身があさましく思われて、危く涙が出かかった。
 その上、新子がだまっていればいるほど、それはいよいよ夫人の気勢を、煽ることになるらしく夫人はいよいよ図に乗って、
「この店で働いているなんて云えば、とても体裁がいいけれど……私は、良人が、こんな不見識な商売をしていることだって、我慢できないんですよ。私の実家や、お友達にでも知れようものなら、良人はともかくも
前へ 次へ
全429ページ中401ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング