美沢さんじゃないの。」
美沢も、美和子を見つけると、
「美和子さん、いらっしっていたんですか。僕が来たからといって、いやだはないでしょう。」と、この年頃の娘さん達は、扱い馴《な》れているというように、ゆったりした容子でまず美和子にほほえみかけて、他のお嬢さん達にも、ごく自然な会釈をすると、空席に腰をおろした。
「ねえ、ちょっと美沢さん。貴君《あんた》好青年《ハンサム・ボーイ》かしら?」
「これはどうも……」物に動じない快活な青年の顔にも、てれくさそうな色がひろがった。
お嬢さん達は、笑いのコーラスだった。
二
ひとしきり楽しく笑いおわると、若い沢山の瞳が、一斉に美沢の方を向いて、パチパチとまたたいていた。
珠子の兄が、頃合を見つけて、
「南條さんとは、お知合いだったのですか。僕の妹珠子です。美沢|直巳《なおみ》君。」と、こんな風に紹介した。
「ほほはほほ、珠子さんが、新音楽協会なんて、おっしゃるから、解らなかったのよ。ヴァイオリンの美沢先生といえばすぐ分ったのよ。それに、ハンサム・ボーイなんていうから、いよいよ解らなくしたのよ。」美和子は、なお悪ふざけを止
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