て、勢いよく襖が開いた。
 あまり成育しない前に、熟《う》れてしまった果物のような、小柄な、身体全体が、ピチピチした――深々とした眼、小さい鼻、小さい唇の、生々とした新子の妹、美和子である。
「何よう!」新子は、無愛想に、広い聡明な額のうすい細い眉をひそめて、そちらを振りむいた。下顎骨が形よく精巧に発達していて、唇が大きかった。のどかそうな、それでいてひどく謎めいている大きな目が、無愛想な言葉を、やわらげるように、ニヤニヤ妹へ笑いかけていた。
「ストッキングが、みんなどれも満足なのがなくなっちゃったのよ。」
「日曜くらい、お家にいらっしゃいよ。それに、もうご飯よ。雨は降っているし……」
「だってえ、家にいたら、呼吸《いき》がつまりそうなんですもの。渡辺さんとこへ行くって約束してあるんですもの。一時の約束よ、もう支度しなければ、遅くなるわ。」
「じゃ着物になさいよ。」
「意地わるっ! こんなに、ちゃんと着てしまっているのに――」クリーム色のピケで、型ばかりはひどくハイカラだが、お手製らしいワンピースを、大仰《おおぎょう》に手を展《ひら》いて見せた。その胸に、大きな乳鋲《ちちびょう》のよう
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