係している酒場に勤めているなんて、本当は、前川さんが貴女のために作ってくれたお店だっていうじゃないの?」
「………」新子はびっくりして姉の顔を見上げた。
「かくされると、いい気持はしないわよ。」
「何を云っているの。美和子のような子供に、何が分るもんですか。」
「あの子は、あれで子供じゃないわよ、そんなことにかけちゃ私達より、ずーっとカンがいいんですもの。私、美和子の云ったことを信ずるわ。」
「だって……あの店、誰のものだか私知らないわ。ただ、前川さんが、経営しろとおっしゃるから私引き受けているだけよ。私、勤めているつもりだわ。」
「だって、貴女のお部屋はあるし、電話はあるし、立派なものだと云うじゃないの。私、小池さんなんかを連れて行ってもいい?」
「どうぞ。いらしって頂戴! 歓待するわ。」新子も、騎虎《きこ》の勢い、やや棄鉢《すてばち》気味にいった。
「今度の公演のポスターが、昨日《きのう》出来たからお店にかけておいて頂戴よ。それから、お客さんに切符売れないかしら。ねえ、三十枚くらい売ってくれない。」圭子は、薄情そうな顔付で、そう云った。
「ええ。」新子は、憮然たる表情で、味気ない返事をした。すると、圭子はいきなりニヤニヤしながら、
「一体、貴女と、前川さんとどういう関係なの?」と、訊いた。

        三

 姉の露骨な端的な問いに、新子もグッと詰まったが、あわててはならないと、胸を落ちつけて、
「何だって、そんなことお訊きになるの?」と、訊き返した。
「だって、前川さんの貴女に対する親切なんて、度に過ぎていると思うわ。」
「だって、初対面のお姉さんだって、度に過ぎた後援をして下さる方だもの。」新子も、負けずにやり返した。
「それもあるわねえ。」と、圭子は、素直に肯《うなず》いてから、「でも、美和子の話では、前川さんは二階の貴女の部屋へ上って行って、一時間も二時間も、話し込むというじゃないの。だから、私心配になって訊いたのよ。」
 またしても、ひどい美和子の告げ口に、新子はカッと上気しながら、
「だって、そりゃお店の経営や、売上げや何かの話だってあるじゃないの。」と、答えたが、新子は口惜《くや》しさで、涙が出そうだった。
「そう、それならいいわ。私だって、貴女が世の中にあるように、前川さんを卑しい意味でパトロンにしているとは、考えたくないの。そんなことをすると、前川さんの奥さんにだってすまないと思うわ。」
「………」
 決して快くは思ってはいない、前川夫人まで引合に出しての、無慈悲な姉の非難に、新子は胸がつまって、口がきけなかった。すると、圭子はニヤニヤして、
「でも、何の関係もなしに、やっているとしたら、貴女も相当なもんね。私は、頼もしい妹を持って心強いわ。」と、云った。
「どういう意味なの。お姉さま、それは?」新子は、聞き捨てならぬ気がして、訊き返した。
「どうって……。もし、そうなら、凄いじゃないの。つまり、前川さんをこうだもの。」
 と、笑いながら、お手玉を取るような手付をして見せた。
 新子は、ムカムカしながら、
「お姉さん、貴女、そんな気持で、私のすることを見てらっしゃるの?」と激しい眼付で、姉をにらんだ。
「だって、そうじゃないの。身体を許さないで、相手にあれだけのことをさせているのは、すごいじゃないの。私になんか、とても出来ないわ。」
「お姉さんの馬鹿!」新子は、とうとうかんしゃく[#「かんしゃく」に傍点]を起して、姉を怒鳴りつけた。
「あら! よく知っているわねえ。私は、どうせ馬鹿よ。新子ちゃんは、利口者よ。おほほほほ。」と、さも可笑《おか》しそうに笑い出した。
「お姉さんが、もう少し家のことをかまって下さったら、私酒場なんかに出はしませんよ。」と、新子はつづけて怒鳴った。
「悪かったわねえ。でも、私は劇のほか、何にも分らないの。ご免なさい!」
 そう云うと、姉は新子の鋭鋒を避けるように、トントン二階へ逃げ上った。

        四

 姉と争った後味の悪い気持で、お店へ来ると、女給の一人の妙子という、チンマリと可愛い顔の少女が、豊かな黒髪を、プツリと切って、すっかり見違えるような後姿《うしろすがた》で、水盤の水を入れかえているので、新子は驚いて、
「まあ。勿体ない」と、眼を刮《みは》って近づくと、すっかり化粧も変えた顔で、
「だって、この方が便利なんですもの。」と、羞《はに》かみながらいった。
「似合うからいいわ。」
 なかなか、女学生らしい溌剌《はつらつ》たる味わいが出て、よく似合っていた。
 そんなことで、新子の気もまぎれ、部屋へちょっと上るとすぐ階下《した》へ降りて来て、少女達と話をした後、よし子のトランプを借りて、一人隅の方の卓子《テーブル》で、ペーシェンスで、その日の運勢を占い始めた
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