もかすかに、うなずいた。
「貴女だって、悪人じゃないんでしょうから、こんな見えすいたことまで、かくしはなさらないわけね。じゃ、お訊きするわ……」と、夫人はさも軽蔑したような調子に変り、「私と主人との間には、今までは何の秘密もなかったんですのに、私に全然|内証《ないしょ》で、主人が貴女の世話をしているなんて……。一体、貴女は主人の何なんですの!」と、冷静を装っている夫人の眼も、さすがに光った。新子は、懸命な努力で、
「前川さんと私、何でもございません。ただご親切にいって下さるもんですから、この店で勤めさせて頂いているだけですの……」と、いった。
「そう! じゃ、貴女は雇人ですの。でも、雇人の貴女が、、こんなハイカラなべッドや、立派な鏡台を持っているんですの……」と、夫人はまず、鋭い皮肉を浴せておいてから、「南條さん、貴女は、口では綺麗なことばかりおっしゃるけれど、貴女と私達一家とは軽井沢でご縁が切れているはずでしょう。それだのに、なぜ主人と交渉を……しかも並々ならぬ交渉をお持ちになっているんですか。しかも、妻たる私に、内証に。それが、私には不可解なのですよ。貴女が、最初から私と、何の面識もない、どっかの職業女性《プロフェッショナル》なら、こりゃ私《わたし》文句は云いませんわ。ところが貴女は、かりにも、半月なり一月なり同じ家にいて、私と朝夕顔を見合わせた関係でありながら、私に内証で、前川と特別の関係をお持ちになる。主人が貴女を再び呼んだのか貴女が主人を呼び出したのかどうか知りませんけれど、一切私に秘密に、こんないかがわしい店に、貴女がいて、毎晩主人と会っていらっしゃる。そういうことはかりそめにも、教育のある淑女のなさることでしょうか。貴女自身|可笑《おか》しいとお考えにならないのですか。そんなことをなさっては、貴女を立派な淑女として、私の家へ紹介した路子さんに、申し訳がないとは、思わないのですか……」

        三

 層々と畳みかけて来る夫人の、一言一言|剣《つるぎ》を並べたような鋭い侮辱に、新子は完膚なきまでに斬り苛まれながらも、返すべき言葉は見当らず、ただじっとこらえる全身の口惜《くや》しさに、指先が烈しく震えて来るのであった。
 夫人は、新子が自分の言葉に、打ちひしがれて返事も出来ぬ容子に、有頂天になり、口で与え得るかぎり、あらゆる侮辱を与えて、二度と再
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