、奥へはいる夫人を、美和子は階段のところまで、案内すると、飛ぶように姉のところへ引き返して来た。
「大方、こんなことだろうと思ったのよ。だから、私いやだったのに、圭子姉さんたら、否応《いやおう》なしに私に押しつけるんだもの。ご免なさいね。でも、二階へ上げて、話した方がいいわ。お店で話しているところへ、前川さんが、ひょっくり来ようものなら、たいへんなことになってしまうじゃないの。だから、私下にいて、前川さんがはいって来たら、善後策講ずるわ。」
子供だと思っていると、一旦緩急の場合には、相当頭の働く美和子の顔を、新子は少し呆れて見つめていると、
「そんなに悲しがることないわ。お姉さん、勇気を出しなさいよ。構わないじゃないの。よしんば、前川さんに、どんなことをしてもらっているにしろ、お姉さんがあの奥さんに、責任を持つことないじゃないの。ねえ、勇気を出して、会っていらっしゃい。下手《へた》に、謝ったりしたら、いやよ。堂々と、戦いなさいよ。」
やんちゃなだけに、こうなると頼もしい妹である。
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貞操問答
一
来てみるまでは、夫人もかほどまでに、新子に対する良人《おっと》の心づかいが、行き届いているとは思っていなかった。
階下を見て驚き、二階へ上ってみて、新子の私室《プライヴェト》らしい小部屋を見て、驚いた。
すべては、小ぢんまりとしていたが、季節の飯蛸《いいだこ》のように、充実している。階段を上るとき電話が引かれているのも見逃さなかった。
夫人は憤《いきどお》らしさと口惜《くや》しさと、良人に対する馬鹿馬鹿しいといった嘲《あざけ》りを覚えるだけで、良人の愛情にのみ生きている妻のように、嫉妬から来る苦痛は少しも感じず、こんなにまで、良人の世話を受けていては、どんなに面詰しようとも、相手はグウの音も出まいと思うと、彼女の心は躍り、眼は輝き、新子が上ってくる二、三分の間《ま》も、もどかしいほど、心がはやるのである。
新子は、このまま逃げ出してしまいたいような、激しい衝動《ショック》を感じて、藁《わら》をもつかみたい今の気持には、美和子に勇気づけられたことで、やっと心を落着け、メズーサの首のようにも恐ろしく思える夫人に直面すべく、階段に足をかけた。
階段を上って行く姉の後姿《うしろすがた》に、さも絶望したような憐れな
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