のですから、行きもしなければ、それについて、訊ねも致しませんの。ただ、銀座裏とだけは、聞いておりますの。」と、相手にバツを合わせながら答えた。夫人は、さり気なく、
「じゃ、お帰りになりましたら、貴女私にお会いになったということは、どなたにも内証にして、そこがどんな筋合のバーだか、前川も時々行くのかどうか、調べて下さいませんか。そして、私にも知らして下さいません? 私、主人をからかってやりたいんですの。私新子さんを酒場《バー》になどご紹介するの、怪《け》しからないと思いますから、証拠を掴んでおいて、たしなめてやりたいと思いますの。その上で、主人にすすめて、主人の会社にでも、ちゃんとお世話するように、申しますわ。私、新子さんは、ちゃんとした方で、充分働きのある方だと、思っていますのよ。あんな落着いた、かしこい方、職業婦人などには、もって来いですわ。」と、口ではそう云いながら、さすがの夫人も、一切自分には秘密で、新子をバーになぞ入れたりしている前川のことを考えると、勝気なだけに、かえって、口惜《くや》しさで、胸がふるえて来るのだった。だからさっきから続けていた愛想笑いが、急にゆがんで、いい気で新子の世話などしている良人《おっと》に対して、出来るだけ辛辣《しんらつ》な復讐手段を、考えることで、すっかり興奮していた。この圭子を、手先に使って、主人が少しも気のつかない内に、新子をそのバーから、追い出してしまうなども一策だが、しかしもっと、主人と新子とを、驚倒させる方法はないかしらと、しきりに考えながらも、圭子には、ちょっと気を更《か》えたように、
「そう、そう。貴女のご用事の方を、お留守にしては、わるいわねえ。この次の切符、お引き受けすればいいんでしょう。」と、気がるく云ったので、圭子は、
「はア。」と、嬉しがった。
「いくらの切符なんですの。」と、もう、女らしいケチな打算が動いて、圭子が、
「一円に二円でございます。」と答えると、
「じゃ一円の十枚、二円の五枚お引き受けしますわ。それでよろしいでしょう。」と、かさ[#「かさ」に傍点]にかかっていってしまうと、夫人の愛想のよさに、百円くらいは引き受けてくれるものと、思っていた圭子は、アテがはずれながらも、
「はア、ありがとうございます。」と、意気地なく、礼をいわねばならなかった。
「その代り、新子さんの酒場《バー》の正体を、明か
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