世話で、はいったようなことを申しておりましたが……」と、云ってしまった。
「まあ! 前川の世話! そんなこと、私にはちっとも申しませんの。おかしいですわねえ。でも、前川の世話だと致しましたら、あの人も考えなしですわ。そんな場所へ新子さんを、お世話するなんて、軽率きわまることですわ。」そう云いながら、もうハッキリ良人と新子の尻尾を掴み得たという、あさましい快感で、モヤモヤ逆《のぼ》せ上って来た。
 これ以上叩けば、もっとどんな大きい埃でも出て来るかもしれない。幸いに、この圭子という人物が、白紙のように表も裏もなく、その上こちらの思うとおり、どうにでも染まりそうである。夫人は、自分の策略の成功にひどく、上機嫌になって、
「その酒場《バー》、やはり銀座ですの。有名な家?」と、訊くと、
「いいえ。新しい家で、私名前は存じておりませんの。私、バーなどへ出るの大反対でしたから、よく聴いておりませんの。」と、云う圭子の答に、ウソはなさそうである。
「ほんとですわ。バーへ、お世話するなんていやですわねえ。でも不思議ですわねえ。主人はあまり、お酒も飲みませんのに、人様のお世話の出来るほど、バーに馴染があるんでしょうかしら。」
 圭子は、また当惑した。美和子の話では、そのバーは、前川の資本に依るということであるが、そんな当てにもならないことを、前川夫人に話しすることは、何か失礼なような気がして、それには返事をしなかった。だが夫人は、しつこく、
「聞かせて頂戴な。もっと詳しく――ねえ、二、三日のうちに、よく調べてね。私主人をいじめて、新子さんを、どうしてそんなところへお世話したか、叱ってやりますわ。そして、その償いに、もっといいところへお世話するよう申してやりますわ。だって、バーなんか、いけないじゃありませんか。」と、云った。圭子を、体よくスパイにしようと云うのである。
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  夫婦の愛憎




        一

 圭子は、夫人が酒場《バー》を嫌うのも、新子の身を惜しんでくれればこそと感激もし、またそんなに、夫人の蔑《いや》しんでいる、バーに出ている妹の代りに、顔を赤らめながら、
「はア。」と肯いた。
「貴女《あなた》、その酒場《バー》に行ってご覧になりませんの?」と、夫人は抜け目なく訊いた。
「いいえ。私も、奥さまと同じに、妹が酒場《バー》へなど出ますの、大反対なも
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