泣いている内に、頭が熱して来て、終《しまい》には、悲しさも口惜しさもなく、ただ無暗《むやみ》と涙が出て来た。自分でも、こうしていては、止め度がないと思ったので、気を転じるために、階下《した》へ降りて行ってみようかと思いながら、一時涙を納めてみたが、頭の芯がポーッとしているし、こんな気持では、誰の話相手にもなれないと思ったので、(もう、階下へ行くのは止そう)と、新子は、狂的に頭を振りながら、また泣けそうになっていた。
三十分も経ってから、やっと涙を納めて、考えると、いつか美沢のことは忘れて、階下にいる前川の姿だけが、大きく心の中に浮んでいた。
こんなに、自分が降りて行かないのに、前川さんは、何かの方法で、自分のことを訊ねてくれてもいいのにといったような、甘えたような怨《うら》みっぽい気持で、また涙が出そうになった。
それとも、前川さんは、もう帰ってしまったのかしら、そうとすれば少し薄情な、と思った。
美和子が、つまらないことを云って、前川が気を悪くして、帰ったのではあるまいかと思うと、不安な気がして、容子を見に降りて行こうかと思うのだったが、しかし美和子の声がきこえて来ると、また降りて行くのが、いやになった。
子供に返ったような、新子自身にも、どうにもならない気持だった。
しかし、ともかくも、顔を直そうと、鏡台の前に腰をおろした。重い椿の花片《はなびら》のように、眸が泣き腫《は》れて、すべすべしていた。
そのとき、いきなりノックの音がしたので、新子は、ハッと我に返った。
足音も、気配も、感じなかったのに、……もう一度ノックが続いた。
(前川さんだろうか。こんな顔しているのに、困るわ)と、思いながら、しかし嬉しくてたまらなかった。
(おはいり下さい!)と云おうと思ったが、もしも美和子であったら、シャクだと思ったので、立って行って、扉《ドア》を開けると同時に、
「どうなさったんですか。」と不安そうに訊かれて、新子はやっと微笑しながら、かぶりを振った。涙でよごれた顔もかまわず、むけながら、
「お帰りにならなかったんですの?」と、云った。
「帰れますか。心配で……しかし、ほかに客がいるのに、僕が上って来たら、可笑《おか》しいので、苛々《いらいら》しながら、下で待っていたんですよ。」と、云いながら、新子の傍へ坐ろうとするので、新子はあわてて片隅に片づけてあった椅
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