りとめては、美沢を憎いとも思っていなかったし、恨んでもいなかった。再び、逢い戻りたい未練もない代りに、心の上で、背いたとか背かれたとかいうような、ハッキリした感情はなかった。こうした結果になったのは、自分の心の上にも、一本調子になれなかった責《せめ》があるし、美沢にも多少の責任はあるが、半分までは妹が悪いのだと思っていた。今では、美沢が妹を引き受けてくれて、良い良人《おっと》となってくれればいいと、願っていたし、当座には幾分でも、妹の行状を直してくれればと望んでいた。もっとも、ジッと眸をやる青空に、滲み拡がる美沢の面影の中には、再び手の届かぬ、貴く得がたい初恋の味が、あるにはあったけれど……。
午後家を出て、ポストのある所へ来るまでに、(厭《いや》だな。美和子のことなんか、成行《なりゆき》にまかせて、美沢さんに会うことなんか、よそうかしら)と、新子はハンドバッグのパチンを開けて、手紙を破り捨てようとしたけれど……。
しかし、今は前川の、愛情を底深く蔵した庇護《ひご》の下に、どうやら息づいている自分の生活を、これ以上美和子に掻き乱されたくなかった。美和子などにどうされる前川氏だとは思い得なかったが、しかし自分の方が、美和子に刺戟されて、前川氏とこれ以上、深入りすることの方が、恐ろしかった……。
五
美沢へ手紙を出してしまうと、新子は美沢との気まずい会合を早く片づけたいと、返事が来るのが、気がかりだった。
だが、返事は、その翌日も翌々日も来なかった。
三日目に、新子が三時頃に、お店へ行って、お掃除をして、開店の準備をしていると、時計が四時を打ったばかりに、フラリとはいって来たお客があった。逆光線で初めはフリのお客かと思っていると、それが思いがけなく美沢であった。新子は、瞬間、ドギマギしたけれど、すぐ他意のない微笑をかれの眼に送った。しかし、美沢は眉の間に、筋を作って、少しも笑わなかった。
ソファと椅子に、焦茶色の卓子《テーブル》をはさんで、二人の間にしばらくの間、沈黙がかぶさった。やっと、新子は、
「どっか、外へ参りましょうか。」と、云ったが、美沢は首をふるばかり……。新子は、わびしい気がしながらも、
「美和子のことなんでございますが……」と、話を切り出した。美沢は、味気《あじき》なさそうな眼を、ボンヤリ新子に向けた。新子は、その眼をなる
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