隆の四人が小山田佐兵衛信茂、原|隼人佐《はやとのすけ》を加えて、明年度の軍事を評議した事があった。其処へ兼々《かねがね》勝頼の側姦の士と白眼視された長坂、跡部の両人がやって来た。短気な内藤は、「此席は機密な軍議の場である。信玄公|卒《しゅっ》するの時、武田家の軍機は我等四人内密に行うべきを遺言された。この大事の席に何事だ」と怒鳴ると、長坂は「勝頼一両年中に、織田徳川と決戦する覚悟である旨を受けて、軍議の処に来た」と答えた。内藤大いに怒って、「この野狐奴《のぎつねめ》が、主君を唆《そその》かして、無謀の戦を催し、武田家を亡ぼそうと云うのか。柄にない軍事を論ずる暇があらば、三嶽の鐘でも敲《たた》け」と罵《ののし》った。長坂も怒《いか》り、刀に手をかけた処、内藤は、畜生を斬る刀は持たぬとて鞘《さや》ぐるみで打とうとしたのを、人々押止めたと云う事がある。こんな遺恨から、今度の軍評定の席でも、両々相争ったわけだが、非戦論者ついに敗れたので、馬場等は、大道寺山の泉を、馬柄杓で汲みかわし、決死を盟《ちか》った。非戦諭者はそれでも諦《あきら》められずに、二十一日の決戦当日の朝、同じ非戦諭の山県昌景を代
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